ホワイトサイダー 名作選
北川 ・・・部長!!!
上田 ・・・どうした北川・・・どうした、傷だらけじゃないか!?
北川 それが・・・南高の奴らが、急に集団で襲ってきて・・・。柔道部の後輩達をナイフで切りつけてきて・・・。
上田 ・・・それでその傷か・・・。
北川 それだけじゃないんですよ!!!部員の財布を、根ごそぎ盗んでいったんですよ!!!
上田 そうか・・・。
北川 きっと・・・きっと南高の高橋の仕業ですよ!!!
あいつが総体の時に部長に負けたから、それを根に持って、後輩達を使って・・・。
上田 ・・・そうか高橋か・・・。
北川 部長、こっちも応戦すべきです!!こっちも後輩たちと一緒に・・・。
上田 ・・・いや、いい。俺が高橋と、柔道で勝負をつけてくる。
北川 けど部長!!相手はナイフを使ったり、盗難をしたりしたんですよ!!
上田 ・・・これは俺の問題だ。高橋は俺と柔道で負けたから、襲撃したり、盗難したりしたんだ。
だから責任は俺が取る。いや、俺が取らなければならない。
それに俺も高橋も柔道部だ。決着は柔道で決めるのが、武道心ってもんだろ。
北川 部長・・・。
上田 ・・・それに・・・。
北川 ・・・それに?
上田 可愛い後輩達に、悪いことなんてさせたくないからな。
北川 ・・・部長!!ありがとうございます!!
上田 分かったら、お前たちは練習して来い。もう放課後練の時間だろ。
北川 はい!!分かりました!!
上田 いいから練習して来い。
北川 ・・・あ、部長。ひとつ言い忘れてました。
上田 ・・・何だ?
北川 部長の「魔法少女ミルキーたん」のフィギュア、ナイフで八つ裂きにされてましたが・・・。
上田 ・・・ちょっとロッカーに行ってくる。
北川 どうしたんですか?
上田 銃・鈍器を取りに・・・。
(柔道着を取りに・・・。)
北川 フィギュアで信念変えるなよ!!!


(自分の部屋に引篭る少年に、担任の先生から電話が・・・)
北川 ・・・はぁ・・・何だよまったく・・・(ガチャ)・・・もしもし。
上田 もしもし、先生だけど・・・高志君、やっぱり学校に来る気は無いかな・・・?
北川 嫌だよ・・・学校に行ったって、どうせまた苛められたり、無視されたりするだけだよ・・・。
上田 そうか・・・じゃあせめて、外に出てみるつもりは無いかな・・・?
外には、まだまだ高志君の知らない、素晴らしい世界が広がってるはずだよ。
北川 そんなことあるもんか、学校でも塾でも、男子には苛められ、女子にはからかわれ、
親や先生や近所の人からは冷たい目で見られ・・・、外の世界なんて怖いだけだよ、
部屋の中で、ネットの世界に閉じこもっている方がよっぽどマシだよ・・・。
上田 ・・・そんなこと言わないでさ・・・。
北川 ・・・僕なんて、生きる価値なんて無いんだ、死んだ方がマシなんだよ絶対・・・。
上田 ・・・そうか・・・・・高志君、先生実は昔、高志君と同じように引篭っていたことがあるんだ。
北川 ・・・え?
上田 先生も昔学校で苛められて、外の世界が怖くなって、部屋の中に引篭ってパソコンばっかりしてたんだ・・・。
北川 先生にそんな過去が・・・。
上田 その内そんな自分が嫌になって、生きる理由も分からなくなって、
リストカットや睡眠薬一気飲みなんかを繰り返していて・・・。
北川 そんなに廃れて・・・。
上田 でもある日、学校の先生とかクラスのみんなが、手紙や写真を送ってくれたんだ・・・
「外の世界はこんなに素晴らしいんだよ、外に出ておいでよ」って・・・。
北川 いい人達だな・・・。
上田 僕もこんなんじゃダメだ、自ら命を落とすなんてもってのほかだ、もっと自分の命を大事にして、
もっと外の世界を知ろうと思ったんだ・・・。
北川 そうだったんだ・・・。
上田 高志君、君はまだ知らないだろうけど、外の世界には、素晴らしいものがいっぱいあるんだよ・・・。
北川 ・・・・・例えば・・・?
上田 暖かい太陽の光、澄み切った空気、子供達が公園で元気に遊びまわり、老夫婦が仲良く散歩して・・・。
北川 ・・・和む風景だろうな・・・。
上田 ・・・芹や薺、繁縷などの野草の匂い、唐松や楓、銀杏などの落葉樹の儚さ、孔雀草や香雪蘭(フリージア)、
木春菊(マーガレット)の華やかさ・・・。
北川 ・・・・・。
上田 ・・・雀や鶯、不如帰の泣き声が微風に乗って流れ、ムネアカオオアリやミカドオオアリ等の昆虫網ハチ目
スズメバチ上科アリ科の行進は進み、ツマグロヒョウモンやクモマチマキチョウ等の
節足動物門昆虫網鱗翅目が元気に飛び回り、空を見上げると、積雲や層雲、巻雲や巻層雲、
高積雲が広がり・・・。
北川 ・・・先生・・・?
上田 wikiで見て初めて分かったんだ。
(生きてみて)
北川 いや部屋から出ろよ。


(卒業式も終わりに近づき・・・)
北川 あ〜・・・卒業式ももう終わりか・・・。先輩達がいなくなると、寂しくなるなぁ・・・。
上田 (司会の「閉式の言葉」の声に合わせ、席を立つ)
北川 ・・・この教頭先生の「閉式の言葉」が終わると、いよいよ先輩達が、この学校を去っていくんだなぁ・・・。
上田 (ステージに登り、マイクテストをする)
北川 本当に・・・寂しくなるよなぁ・・・。
上田 え〜・・・ついに卒業式も終わりになりますが・・・。
北川 ・・・・・。
上田 ・・・最後に、私から卒業生に、是非聞いてもらいたい話があります・・・。
北川 ・・・・・話・・・?
上田 これは、私がまだ高校生だった頃の話なのですが・・・。
北川 昔話かなぁ・・・。
上田 恥ずかしながら、当時私は、決して真面目な生徒とは言えず、寧ろ不良に近い生徒でした。
バイクで暴走行為をしたり、タバコやシンナーにも手を出しました・・・。
北川 嘘!?あんな真面目な教頭先生が・・・。
上田 勉強もスポーツもあまり得意ではなく、これといった特技や趣味も無かった当時の僕は、
今後の展望が見えず、将来に対する漠然とした不安に押しつぶれそうになっていました・・・。
多分、それを紛らわすために、不良行為に明け暮れていたのだと思います・・・。
北川 意外だなぁ・・・教頭先生が不良だったなんて・・・。
上田 ある日、不良仲間の一人が、急に普通の格好に戻り、真面目に勉強し始めました。
訳を聞くと、その彼は「いや、何かさ・・・何かバイクの改造をやっていく内に、
将来バイクを作りたいと思い始めちゃって・・・。
その為に、工学系の大学に進学した方がいいって親が言うからさ。」と答えました。
北川 ・・・えっ・・・。
上田 当時の僕は、その人を非常に信頼しており、最高の友達・・・当時は「ダチ」と呼んでいましたが・・・
だと思っていました。その親友が将来の夢を見つけたことは、本当にショックで、
自分の惨めさからくるイライラは、日に日に募るばかりでした・・・。
北川 本当にショックだったろうな・・・。
上田 ・・・そんなある日の放課後、ふと誰もいない教室に戻ってみると、体育祭の応援で使用するため、
クラス全員で一生懸命作っていた応援旗が置いてありました。僕はその旗の制作には加わって
いなかったので知らなかったのですが、その旗には、大きく一文字「夢」と書かれていました。
北川 旗か・・・。
上田 将来の不安の反動で非常にムシャクシャしていた僕は、その旗の「夢」の文字があまりに眩しくて、
思わずその旗をビリビリに破ってしまいました・・・。
北川 ・・・あ〜あ・・・。
上田 その時、当時の僕の担任の先生がたまたま通りかかり、僕が旗を破っているところを
見つかってしまいました。
北川 ・・・うわ、最悪だ・・・。
上田 その担任の先生は、普段から無口で生徒とあまりコミュニケーションをとらず、「空気先生」と
あだ名が付くほど存在感の薄い先生でした。勿論、不良だった僕達の事を叱った事もありませんでした。
北川 何か、やる気のない先生だな・・・。
上田 旗を破ってる僕を見て、先生は「何をしてるんだ?」と聞いてきたので、僕は「見て分かんねぇか?
旗を破っているんだよ。」と答えました。
北川 ・・・・・。
上田 すると先生は「何で旗を破ってるんだ?」と尋ねました。僕は「こんなダサい旗、何で作ってるか、
こっちが聞きたいくらいだ・・・。クラス皆バカだなぁ・・・夢なんて、本当に下らないのにな・・・
本当にバカだ、バカばっかだ!!」と、半分ヤケになって答えました。
北川 ・・・本当にイライラしてたんだね・・・。
上田 すると突然、先生が僕のことを平手打ちして、「夢がくだらないなんて言うんじゃない!!
それに、クラス全員で一生懸命作ったものを侮辱する行為は、絶対に許さない!!」と怒鳴りました。
北川 うわ・・・・。
上田 先生が殴るなんて思ってもみなかった僕は、一瞬呆然としましたが、すぐ我に還ると、今度は怒りが
こみ上げて爆発し、気づいたら先生のことをボッコボコにしていて、そのまま教室を出てしまいました・・・。
北川 先生・・・・。
上田 担任の先生は倒れた際に脊髄を損傷してしまい、首から下が完全に麻痺してしまいました・・・。
勿論僕は、退学処分を受けてしまい、その後は、就職や勉強どころかアルバイトもせず親の金で
遊び呆け、本当に自堕落な生活を送っていました・・・。
北川 最悪だ・・・。
上田 そんなある日、僕宛に封筒が届きました。手紙を貰うような友人がいなかったその時の僕は、
不思議に思いながら、封を開けました・・・。
北川 ・・・誰からだろう・・・?
上田 それは、担任の先生からでした。その封筒の中身は手紙が入ってて、こう書かれていました・・・。
北川 先生が・・・。
上田 「北川君、元気にしていますか?僕は病院で、のんびりゆっくりと過ごしています。
退屈といえば退屈ですが、それはそれで良いものです。」
北川 ・・・・・。
上田 「あの時北川君を殴ったことは、本当に申し訳なかったと思っている。でも、先生は、北川君がいつも
何か不安に追われているようで、心配だったんだ。あの時、先生が北川君を殴ったのは、北川君に
目を覚まして欲しかったからなんだ。」
北川 ・・・・・。
上田 「北川君はきっと、将来に対して早く答えを出そうとして、焦っているんだと思う。だけど先生、
『夢』って、一生をかけて、ゆっくりと見つけていくものだと思うんだ。生涯の中で、色んな経験をして、
その中で、自分のしたい事を見つけていけばいいんだと思う。」
北川 ・・・・・。
上田 「先生、実はあんまり教師になりたくなかったんだ。両親が共に教師だったから、何となく
教師をやっていただけなんだ。だからあんまりやる気も無かったし、生徒達を叱ることも無かった。」
北川 ・・・・・。
上田 「でも、クラスの皆があの応援旗を作っているのを見ていて、何故だか分からないけど、
感動してしまったんだ。下手な字だけど、それでも力強い字で『夢』って書かれているのを見て、何か
熱いものを感じたんだ・・・。その時初めて、『あぁ、教師をやってきて良かった・・・』と思ったんだ。」
北川 ・・・・・。
上田 「北川君はまだ若いし、何より五体が満足に動くんだ、可能性はいくらでもある。だから、何でもいい、
何でも良いから、何かにチャレンジして欲しい。それで、何でもいい、何でも良いから『夢』を掴んで
欲しいんだ。・・・頑張れ、『夢』を掴むまで!  先生より」
北川 ・・・・・いい話だ・・・。
上田 ・・・手紙を読み終えて、ふと封筒を見ると、中に、小さな布キレが入っていました・・・。
北川 ・・・・・?
上田 それを広げてみると、そこには、文字が震えている上に、所々反れた点や線があるけれど、
それでも力強い字で、一文字「夢」と書かれてありました・・・・・。
北川 ・・・・・。
上田 それは、先生が僕に向けて作ってくれた応援旗でした。「夢」という文字は、首から下が動かない
先生が、口に筆を加え、苦労して書いた文字でした・・・・・。
北川 ・・・・・。
上田 それから僕は心を入れ替え、バイトをしながら予備校に通い、何とか都内の大学に受かることが
出来ました。そして僕は、「先生みたいな教師になる」という「夢」を見つけることが出来ました。
北川 ・・・変わったんだ・・・。
上田 その後は、教師になるまでの間、そして教師になってからも、今までずっと、
その「夢」の為に努力してきたつもりです。まだまだ先生のような教師にはなれないけど、
それでも、一生懸命頑張ってきたつもりです。
北川 ・・・そうだったんだ・・・。
上田 ・・・みなさん、みなさんはこの高校生活の中で、「夢」を見つけた人もいれば、まだ「夢」を
見つけていない人もいると思います。
北川 そうだ・・・俺もまだ、将来何がしたいか分からない・・・。
上田 ・・・それでも、焦ることはありません。君達にはまだまだ沢山の時間が・・・(ぐすっ)・・・あるのです。
北川 ・・・先生・・・。
上田 皆さんはこれから・・・(ぐすっ)・・・大学に進学するものもいれば・・・(ぐすっ)・・・就職するものもいます・・・
中には、進路を何となく・・・・(ぐすっ)・・・決めてしまったものもいるかもしれません・・・(ぐすっ)・・・
しかし・・・(ぐすっ)・・・「夢」を見つけた人もまだ見つけていない人も・・・(ぐすっ)・・・これから、
色んなことにチャレンジして・・・(ぐすっ)・・・して下さい・・・(ぐすっ)・・・その経験はきっと・・・(ぐすっ)・・・
「夢」を見つけるための、そしてその「夢」を実現するための・・・(ぐすっ)・・・
糧になることでしょう・・・(ぐすっ)・・・頑張って・・・(ぐすっ)・・・ください・・・(ぐすっ)・・・。
北川 ・・・(ぐすっ)・・・(ぐすっ)・・・先生・・・。
上田 ・・・スイマセン・・・(ぐすっ)・・・つい目頭が熱くなってしまいました・・・(といって、涙を拭く)・・・
もう大丈夫。先生の話は以上です!・・・さぁ、皆涙を拭いて・・・最後は元気に終わりにしましょう!!!
これで、「閉式の言葉」を終わりにします!!!
北川 ・・・(涙を拭く)・・・よし、俺も先輩達を手本にして、「夢」に向かって頑張るぞ!!!
上田 卒業生、来校!!!
     (退場!!!)
北川 ・・・ってまだ卒業生来てなかったの!?
それでは、エントリー作品をご覧ください